プロ並の仕上がりになる山田工業所の打ち出し中華鍋

 チャーハンや野菜炒めなど、中華料理を作るなら中華鍋を使いたいものです。炒める、焼く、揚げる、煮る、蒸すまでほとんど中華鍋でまかなえてしまいます。山田工業所の打ち出し中華鍋は、プロの料理人から圧倒的に支持されている製品で、横浜中華街では8割のシェアを持つといわれています。

プロが絶賛するには理由がある

 中華料理は強い火力で調理するのが基本です。したがって本格的な中華料理を作るなら、強火の使えないフッ素加工の中華鍋は適しません。家庭用であっても強火で短時間調理すると、野菜炒めはしゃっきりと、チャーハンはパラパラに仕上がります。中華料理店の仕上がりを目指すなら、鉄製を使うべきでしょう。

 山田工業所の中華鍋は、鉄板をハンマーで叩いて作る国内唯一の打ち出し製法を採用しています。一枚の鉄板をハンマーで叩いて鍋の形に成型していきます。回数は平均5000回にもなるといいます。このとき、ハンマーが当たる部分を微妙に調整して、火の当たる部分を薄くするなど、場所によって厚みを変えることで熱伝導性を高めています。

 そして叩いて作ることで、表面には手で触ってもわからないほどの細かい凹凸ができます。この凹凸があることで油なじみがよくなり、食材を焦げ付かせにくくなります。また鉄を叩いて延ばすことで、薄くても丈夫に作れるので、一般的なプレスで作った中華鍋よりも軽くなります。毎日鍋を振るプロにとっては身体の負担が軽くなり、一般家庭のユーザーには扱いやすさにつながるのです。

 同社は1957年に横浜で創業されて以来、一貫してこの叩き出し製法で生産しています。もともとプロのための道具として作られているため、片手鍋や両手鍋のバリエーションのほか、板厚やサイズなど非常に多くの種類が作られています。今回は、板厚1.2ミリの30cmの片手鍋を使って試してみました。

強火で使えるからお店の仕上がりに

 30cmの中華鍋は見た目には大きいですが、鉄板が薄いので思ったほど重量感はありません。計測してみると970gで、男性なら食材が入ってもけっして振れない重さではありません。一枚の鉄板から叩き出されているので、持ち手部分とのつなぎめにもリベットなどありません。持ち手にはよく見ると「打出し」という刻印が打たれています。

 鉄の中華鍋は使い始めに、空焼きというさび止めのコーティング材をとる作業を行います。そのあとに野菜くずなどを炒めて、油をなじませます。あとは使い込んでいくうちに、油がなじんで、食材のくっつきにくい使いやすい鍋に育っていきます。たとえ焦げ付かせてしまっても、金たわしなどで磨いて、また油をなじませる作業を行えばずっと使い続けられます。一生どころか孫の代まで使える鍋です。

 まずはじめに王道のチャーハンを作ってみます。十分に加熱した鍋に油をまわし入れ、卵を入れてすぐにごはんを投入。たまごを絡めるようにしてごはんを炒めます。強火で調理するので、ごはん全体に卵かコーティングされるように、手早く混ぜていきます。なるべく空気を含ませるように鍋をふりながら炒めていくと、すぐに全体がぱらぱらになってきます。具材や調味料を入れて、さらに炒めて、よく混ざり合ったらもう完成です。

 熱の伝わりがいい中華鍋による強火調理なので、火の通りもよく、すぐにぱらぱらになります。表面の凹凸による効果か、油なじみがよく食材を焦げ付かさずに炒められました。鍋を振れなくても、コンロに置いたままで、へらなどで素早く混ぜていくだけでもぱらぱらにできます。今までフッ素加工のフライパンで、べちゃべちゃなチャーハンを作っていた人でも、お店の仕上がりにできるはずです。

 続いて回鍋肉を作ってみます。炒め物は十分に加熱していて、かつ野菜の水分が出ないように短時間で炒め野菜のしゃっきり感を残すことが重要です。先に中華鍋に水を入れて沸騰させて、そこに豚肉を入れて茹でます。肉を一度とりあげてから、鍋を洗って、十分に加熱。油をまわし入れて、強火で野菜を炒めます。そこに肉を戻して、調味料をまぜあわせれば完成。しゃっきりとした野菜の食感が残った回鍋肉のできあがりです。

多用途で使えて手入れも簡単

 中華鍋は揚げ物にも便利です。表面積が大きいので、食材がむらなく均一に火が通ります。ここでは鶏の唐揚げを作ってみました。油を入れて加熱するとすぐに高温に。熱伝導のよさがよくわかります。下味をつけた鶏肉を入れると、じゅわっと油が沸き立ちます。面積が広いので、鶏肉全体がまんべんなく油につかり加熱できます。2分ほど揚げて、一度取り出して4分ほど休ませます。そのあとにもう一度180度で二度揚げしました。できあがった唐揚げは、中はジューシー、外はカリッとして美味でした。

 鉄の中華鍋は、使った後は洗剤を使わずにたわしとお湯で洗浄します。水分が残っているとサビにつながるので、コンロにかけて水分を蒸発させるといいでしょう。はじめのうちはそのあとに薄く油を塗っておくと万全です。ただしそれほど神経質になることはなく、もし焦げ付きや汚れが気になるなら、洗剤を使って洗ってもかまいません。そのあとにまた油をなじませればいいだけです。

 鉄の中華鍋は面倒という印象を持つ人は多いですが、使うときに十分に加熱させてから、油をまわして、食材を入れれば食材がくっつくことも少ないです。特にこの山田工業所の打ち出し中華鍋は、ほんとうに油なじみがよく、熱のまわりもいいので、使いやすいです。炒め物をするときのその実力がよくわかります。使い込むほどにさらに使いやすくなって、ますます好きになります。山田工業所では小売りはしていないので、価格は店ごとに異なりますが、決して高価ではありません。4000〜5000円程度で一生ものが手に入ります。この中華鍋をダイナミックに振って、ぜひワンランク上の中華料理を作ってみてください。